環境問題への対応は、今や一国の政策課題を超えて、グローバルな共通の課題となっています。特に日本においては、環境への意識と行動の変革が急務です。2024年5月に閣議決定された第六次環境基本計画では、ナッジを含む行動インサイトの活用が強調されています。これにより、企業と国民が共に進化する行動変容が推進されています。以下に、同計画の関連項目を抜粋を記載します。
第六次環境基本計画(令和6年5月閣議決定)より抜粋
1. 経済社会システムの変容:物質的な豊かさに重きを置いた「線形・規格大量生産型の経済社会システム」から、地上資源基調の、無形の価値、心の豊かさも重視した「循環・高付加価値型の経済社会システム」への転換は、現代における真の「豊かさ」の実現、すなわち経済の長期停滞からの脱却などGDPで捉えられるものだけでなく、GDPで捉えられない部分も含めた人々の生活の質、幸福度、ウェルビーイング、経済厚生の向上のために共通した基盤と指摘できる。
2. グリーンな経済システムの構築:循環共生型社会の構築に向けて、自然の循環と調和した究極的な経済社会の物質フローに近づけながら我が国の経済を発展させていくため、「量的拡大」「集約化」「均一化」することで効率的な経済活動を可能とする成功モデルを生み出す前提で設計された旧来の経済システムから脱却する必要がある。
3. イノベーションの実現:資源生産性や炭素生産性を始めとした環境効率の大幅な向上を図ることにより、環境負荷の総量を削減し、環境収容力を守り、自然資本を維持・回復・充実させ、かつ、有効に活用していく。これにより、環境負荷の低減と経済成長の絶対的なデカップリングを加速させる経済社会システムのイノベーションを実現する。
4. 消費行動と企業行動の共進化:使い捨てを基本とする大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会様式につながる一方通行型の線形経済から、製品等をリペア・メンテナンスなどにより長く利用するとともに再利用・リサイクルを行い、市場のライフサイクル全体で資源を効率的・循環的に有効利用することで資源・製品の価値の最大化を図り、資源投入量・消費量の最小化、廃棄物の発生抑制等を目指す循環経済への移行を進め、これを持続的なものとし、社会経済活動の中で主流化させる。こうして環境価値を軸に、消費行動と企業行動(生産行動)を共進化させていく。
5. 消費者の行動変容:しかしながら、現実には我が国の国民の環境意識は、国際的には決して高いとは言えず、現状に対する危機感が弱いことが調査結果から見て取れる。
6. 消費行動については、国民の環境意識を高めつつ、価格重視から環境価値等の質を重視する方向への転換を促していく。
7. 環境価値の高い製品・サービスが、国民の消費行動において選択されるためには、これらの製品・サービスの市場を拡大し、製品・サービス単位での環境負荷の見える化を進めるとともに、消費者の意識・行動変容を促す必要がある。
また、第六次環境基本計画では、「ナッジを活用した自発的な行動変容の促進」が重要な行動項目として挙げられています。
第六次環境基本計画記載事項
1. 環境への配慮は一般に、行動の結果が目に見える形ですぐに現れないがゆえに実施を先延ばしにされがちであり、また、そもそも環境問題については、自分とは関係ない、自分は大丈夫といった考えを持たれることもしばしばである。
2. こうした認知バイアスや無関心については、従来、広報・普及啓発や環境教育により改善が試みられてきたが、それらの質や効果に関する課題が指摘されることも多い。
3. こうした状況に鑑みて、ナッジを始めとする行動科学の知見の活用等、根拠に基づいた効果の確からしい科学的アプローチにより、様々な環境問題に関するバイアスや思考の癖を改善し、環境問題を自分事化させ、自発的な意識変革や行動変容を促進する。
まとめ
日本における環境戦略の進展には、ナッジの活用が不可欠です。第六次環境基本計画は、ナッジを通じて企業と国民が共に進化し、持続可能な社会を構築するための具体的な指針を提供しています。
ナッジは、環境への配慮を促し、消費行動や企業行動を変える力を持っています。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、文化的背景や国民の意識を深く理解し、適切に対応することが不可欠です。今後も、自治体、企業、市民が共に手を取り合い、ナッジを活用して持続可能な未来を実現していくことが求められています。
ナッジを活用して、私たち一人一人の行動をより良い方向へと促し、地球に優しい持続可能な社会を築いていきましょう。