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ナッジの認知と課題

日本におけるナッジの普及と今後の展望

1.ナッジへの認知・理解の高まり

 

1-1. 日本版ナッジ・ユニットBESTの役割

2017年の発足以来、日本版ナッジ・ユニット(BEST)は環境省が事務局を務め、ナッジや行動インサイトを活用した政策を推進しています。連絡会議を定期的に開催し、方法論や課題を共有することで、幅広い分野における問題解決を目指しています。また、欧米の政府機関や専門家とも連携を図り、情報交換を進めています。
BESTは、これまでに年次報告書(平成29・30年度版)を発行し、2021年には「ナッジとEBPM~環境省ナッジ事業を題材とした実践から好循環へ」という報告書を発行しました。これらの取り組みにより、日本国内でのナッジに対する関心が高まっています。


1-2. 検索トレンドの分析

下図は、2017年1月から2024年5月までの「ナッジ」に関するGoogle検索の推移を、日本と世界で比較したものです。日本では2022年9月にピークを迎え、継続的に関心が高まっています。

 

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一方で、世界での「nudge」検索数は、日本よりも早くから関心が高まっていましたが、その増加率は日本の「ナッジ」を下回っています。これは、ナッジが日本において行動インサイトの手法として急速に浸透していることを示しています。

また、2005年1月を起点とする日本での「ナッジ」の検索数の推移を見ると、2017年からの増加が顕著であり、その関心がコンスタントに高まっていることがわかります。

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しかし、検索数が2022年9月をピークに頭打ちになっているようにも見えます。このデータは、日本における「ナッジ」に対する関心が、COVID-19禍の影響で一時的に急上昇し、その後安定していることを示唆しています。

1-3. COVID-19とナッジの影響

2022年は、COVID-19の影響で、行動変容についての議論が活発化しました。「強制」か「自主選択」かを巡る議論がメディアやSNSで注目され、ナッジに対する関心も高まりました。この時期、大竹文雄・大阪大学教授が政府の基本的対処方針分科会で発言した内容や、彼の著作『あなたを変える行動経済学』がナッジの認知度を急速に高める一因となりました。

また、同年はロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の上昇がありました。この影響で、日本政府は「節電ポイント」施策を実施し、ナッジを用いて国民の節電行動を促しました。東京電力や関西電力など、多くの企業もこれに追随し、ナッジの実践がエネルギー安全保障の一部として組み込まれました。

1-4. ナッジに関する出版物の増加

2021年から2022年にかけて、ナッジに関連する多くの書籍が出版されました。特に地方自治体職員向けのガイドブックや実践書が多数登場し、ナッジの普及に貢献しました。例えば、『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』(リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン)や、『自治体職員のためのナッジ入門』などがその例です。
これらの出版物は、ナッジの概念を広く伝え、地方自治体や公共機関におけるナッジの実践を支援しました。

 

2. ナッジ普及の課題と展望

2-1. 関心の持続と課題

ナッジに対する国民の関心は、2022年にピークを迎えましたが、その後、安定した関心を保っています。しかし、COVID-19後の社会では、新たな課題や変化に直面しています。ナッジの手法をどのように適用し続けるかが、今後の重要な課題です。

2-2. ナッジの適用とガバナンス

ナッジを効果的に活用するには、ガバナンスとアカウンタビリティが欠かせません。また、デジタル技術やAIの活用も、ナッジの新たな可能性を広げています。これからは、民間セクターとの連携を強化し、社会全体でナッジを実践するための枠組みを構築することが求められます。

2-3. 行動インサイトの未来

日本におけるナッジの普及はまだ始まったばかりです。社会情勢や経済の変化に対応しながら、行動インサイトを効果的に活用することで、国民の生活の質を向上させることが期待されています。