1. ビジョン
日本におけるナッジなどの行動科学の適切な活用と普及に向けた戦略のビジョンを策定するにあたり、次のような目標を掲げます。
COVID-19のパンデミックを通じて、各種行政施策で強制と選択のバランスが議論される中、ナッジを含めた行動インサイトの活用に対する国民の関心が高まっています。同時に、経済社会のパラダイムシフトを進め、持続可能な未来を実現するためには、行動変容施策の重要性が一層増しています。
この背景のもと、以下のビジョンを目指します:
- SDGsの実現: 持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて、日本発のモデルを構築する。
- トップダウンとボトムアップの連携: 行政と民間、中央と地方が連携し、ナッジの普及を進める。
- 最先端技術とイノベーションの活用: 行動インサイトの活用に、先端的な科学技術やイノベーションを積極的に取り込む。
- ナッジの主流化: ナッジや行動インサイトの知見を、日本社会に広く根付かせ、持続可能な社会の構築を目指す。
2. アプローチ(指針)
このビジョンを具体化するために、次の5つのアプローチを採用します。
1. 持続可能なアプローチ(Sustainable)
- 長期的視点でのナッジ施策の展開:
- ナッジ介入が一過性のものでなく、持続可能な影響を与えるようにします。特に、エビデンスに基づく政策形成(EBPM)を用い、バックキャスティング思考法を活用して、将来の目標から逆算して現時点で必要な行動を計画します。
- 短期と長期、マクロとミクロの視点からPDCAサイクルを回し、施策の効果を持続的に評価・改善します。
2. 包摂的なアプローチ(Inclusive)
- すべての人々を巻き込む:
- 環境基本計画に従い、あらゆる主体が参加し、共に学び合う社会を構築します。市民社会と地域コミュニティの対応力を高めるため、若年層や女性の参加を促進し、世代間の公平性とジェンダー平等を確保します。
- 自主的・積極的な参加者だけでなく、取り残されがちな人々も包摂し、「全員参加型」の社会を目指します。
3. 包括的なアプローチ(Overarching)
- 多様なテーマを統合する:
- 環境基本計画の目標であるウェルビーイングや高い生活の質を達成するため、すべてのテーマやセクターでの介入施策を通じて、包括的な社会目標の実現を目指します。
4. 多様化したアプローチ(Diversified)
- 個別対応と多様性の尊重:
- 生成AIの活用により、一人一人に合ったパーソナライズドされたナッジを提供する一方で、画一的思考に陥らず、汎用性と特異性のバランスを取った行動変容モデルを構築・実装します。
5. 横断的なアプローチ(Crosscutting)
- 複合的課題の統合的解決:
- 環境、経済、社会の各側面にわたる課題は、異なる政策分野の動向に起因することが多いです。行動インサイトを活用し、これら複合的な課題に対する統合的な解決策を追求します。
3. ナッジ戦略の4本の柱
この戦略を実現するための4つの柱を以下の通り定めます。
(1) 国家戦略における行動インサイト活用の促進
- マクロ的視点での対応:
- グリーン経済や社会のパラダイムシフトを背景に、温室効果ガス削減やエネルギー・食料安全保障など、国際的な課題に対する国家戦略の一環として、ナッジを含む行動インサイトの活用を促進します。
- 環境・エネルギー、健康・医療、教育、税徴収、行政効率、働き方改革、差別撤廃、SDGsなど、さまざまな社会課題に対するナッジの実装を進めます。
(2) 地域や民間セクターでの行動インサイト活用の促進
- 地域レベルでの普及:
- 地方自治体が主導する地域レベルでのナッジモデルの普及・展開を強化します。地域コミュニティのニーズに合わせたナッジの実践を支援し、地域の活力を高めます。
- 民間セクターにおいても、行動インサイトを活用して持続可能なビジネスモデルを構築する取り組みを促進します。
(3) 先端的科学技術・イノベーションの活用
- 技術の最大限活用:
- IoT、ビッグデータ、AIなどの先端技術を駆使して、行動インサイトに基づくモデルの構築、社会実装、効果検証を行います。
- これにより、環境や他の社会的課題への革新的なアプローチを国内外で実現し、ナッジ施策の有効性を高めます。
(4) オープンイノベーションとガバナンス・アカウンタビリティの確保
- オープンで透明なガバナンス:
- ナッジの普及と展開のため、ナレッジマネジメントや組織・人的キャパシティーデベロップメントを強化し、フラットな連携を通じてオープンイノベーションを実現します。
- パーソナライズドナッジによる介入施策の複雑化や、AIのブラックボックス化、SNSによる情報の高度化に対処するため、行動インサイトに関わるエコシステム全体のガバナンスとアカウンタビリティを強化します。
- プロジェクトや組織、関わる人々の評価を充実させ、透明性と信頼性を確保します。
戦略構成のイメージ
以下の図は、ナッジ戦略の全体構成と4本の柱の関係を示しています。
まとめ
この戦略は、ナッジなどの行動科学の知見を活用して、持続可能で包摂的な社会を構築することを目指しています。国家戦略と地域・民間セクターの取り組みを連携させ、先端技術を活用しながら、透明で信頼性のあるガバナンスを確立することで、日本の未来に向けたパラダイムシフトを推進します。