(1) 省エネルギーの推進
令和3年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、家計部門の2030年までの省エネ目標を2013年比で1,208万klと上方修正しました。この削減目標全体のうち、「①HEMS・スマートメーターの導入」と「②省エネルギー情報提供によるエネルギー管理」は、216万klの削減目標を占めています。これは家庭部門全体のエネルギー消費を5%削減し、1980年代水準まで引き下げるという野心的な目標です。
具体的な施策としては、HEMS、スマートメーター、スマートホームデバイスの導入による家庭のエネルギー消費状況の詳細な把握と、これを踏まえた機器の制御による電力消費量の削減を図ることが挙げられます。同計画では、対象機器範囲を拡大しており、2030年にHEMS・スマートホームデバイス導入率を85%にまで引き上げる目標を掲げています。これを達成するためには、国民の「導入の行動変容」を促すことが必須です。
もう一つの施策として、エネルギー小売事業者による一般消費者への省エネ情報提供による省エネ効果を追加しました。こちらも国民の「省エネアクションの行動変容」を促すことが必須です。第6次エネルギー基本計画達成の成否は、国民の自発的な行動変容の実現にかかっています。供給サイドから需要サイドへの省エネ施策のパラダイムシフトの中で、よりドラスティックな行動変容を実現するためには、最適な政策・規制、金銭的インセンティブの付与と平仄を合わせた有効なナッジ施策の導入が求められています。
事例-1. エネルギー消費量削減(R5環境白書)
環境省のナッジ事業の一環として、日本オラクル、住環境計画研究所及び東京ガスでは、2017年度から2020年度にかけて、アクティブ・ラーニングの手法に加え、ナッジ(行動の結果の見える化やフィードバック、コミットメント等)や行動変容ステージモデル等の最新の行動科学の知見が活用された省エネ教育プログラムを開発し、全国の小・中・高等学校の教育現場で実践しました。その結果、家庭での電気・ガス・水道使用量やCO2削減効果、環境配慮行動の実践度合い等を定量的・定性的に検証したところ、省エネ教育後に平均5.1%のCO2削減効果(電気・ガスの合計)が統計的有意に実証されました。
また、全国の約30万世帯を対象に、ナッジ等の行動科学の知見に基づく省エネアドバイス等を記載したレポートを送付し、その後の電気やガスの使用量にどのような効果が表れるかを実証しました。毎月ないし2か月に1回程度の頻度でレポートを2年間送付し、ランダム化比較試験と呼ばれる頑健な効果検証の手法により、レポートを送付していない世帯と比較した結果、平均で約2%のCO2削減効果が統計的有意に実証されました。ナッジの活用を終了した後の効果の持続について検証したところ、上記のいずれの実証においても1年後に効果が持続していることが確認されました。
事例-2. 省エネ:みんなでおうち快適化チャレンジ(R5環境白書)
環境省では、2021年8月から夏季、11月から冬季の「みんなでおうち快適化チャレンジ」キャンペーンを展開しました。以下のロゴを用いてわかりやすく訴求し、「みんな」で社会訴求を、「チャレンジ」で目標設定によるコミットメント効果などの行動インサイトを活用し、国民一人一人の行動変容を促しています。本キャンペーンでは、在宅時間の増加による住宅での冷暖房使用等による家庭でのエネルギー消費の大きくなるタイミングを捉え、家庭の省エネ対策としてインパクトの大きい、ZEH化・断熱リフォームを呼び掛けました。
事例-3. 省エネ家電への買い替え(R4環境白書)
環境省とメトリクスワークコンサルタンツは、2019~2020年度に協力先の地方公共団体で転入・転居等が多い時期に住民票等を届出に来た住民に対して、ナッジを組み込んだ4種類のリーフレットのうちのいずれかを無作為に配布する実証実験を実施しました。その結果、うち2種類(社会規範のメッセージと環境配慮を訴求したメッセージ)が省エネ型冷蔵庫の購入を促すことが実証されました。行政窓口でリーフレット1枚を配布するだけで良いため、費用対効果が高く(普及期の費用対効果は237円/t-CO2)、地方公共団体にとって取り組みやすいことが特徴です。
(2) 再生可能エネルギーの活用
再生可能エネルギーの利活用や再エネ電気料金メニューの選択を自発的に促すナッジが、政府・自治体の施策に包摂されています。
事例-4. 「みんなでいっしょに自然の電気」キャンペーン(R4環境白書)
太陽光発電設備等を自宅に設置する以外にも、家庭で使用する電力を再生可能エネルギー由来のものにする方法があります。現在、全国では複数の小売電気事業者が太陽光や風力等の再生可能エネルギー由来の電力メニューを一般家庭向けに提供しています。こうした電力を購入することで、家庭での使用電力を再生可能エネルギー由来のものへと切り替えることができます。
再生可能エネルギー由来の電力メニューを選択する家庭が増えることで、家庭部門からの排出削減に加え、再生可能エネルギーに対する需要が高まり、市場の拡大を通じて再生可能エネルギーの更なる普及拡大につながることが期待されています。このため、再生可能エネルギー由来の電力を選択する家庭を増やすための自治体による支援も行われています。例えば、東京都では2019年度から、再生可能エネルギー由来の電力の購入を希望する家庭等を募り、購買力を高めることで、安い電力料金で各家庭等に再生可能エネルギー由来の電力を利用してもらう「みんなでいっしょに自然の電気」キャンペーンを実施しています。さらに2020年度には、近隣自治体とも連携してキャンペーンを拡大するなど、このような取り組みが広がりつつあります。
次回は、再生可能エネルギーのさらなる普及と活用のために、他の先進事例について詳しくご紹介します。