日本版ナッジ・ユニットでは、日本型のナッジ・フレームワークとして「おもてなしフレームワーク」を構築し、その活用と発信を進めています。
このフレームワークは、日本独自の文化的価値観である「おもてなし」の精神を取り入れ、人々がより良い選択をできるように支援するための行動科学的アプローチを体系化したものです。
日本文化を背景にしたナッジ活用の枠組み
「おもてなしフレームワーク」は、環境設計やコミュニケーションの工夫、共感を呼ぶメッセージ設計など、多様な手法を組み合わせながら、行動変容を後押しする仕組みです。
日本の行政職員などの実務者が、社会課題解決のために行動インサイト(行動に関する知見)を活用する際の手引きとして作成されました。特に行政機関における組織・人材育成の場面での活用が期待されています。
フレームワーク開発の経緯と特徴
このフレームワークは、連絡会議でこれまで取り扱ってきた事例をベースに、政策の企画から実行までの流れを整理したものです。
実務者にとって使いやすく、かつ包括的に検討を進められる構成を目指して開発されました。
各国においては、OECDをはじめとする機関が独自のナッジ・フレームワークを活用していますが、日本では日本語による包括的な枠組みがこれまで存在していませんでした。
そのため、OECDが公表した「BASICフレームワーク(2019)」を参考に、日本版ナッジ・ユニット連絡会議で検討された内容を踏まえて、「おもてなしフレームワーク」が再構築されました。
「おもてなし」フレームの5ステップ
本フレームワークは以下の5つの段階から構成されています。それぞれの頭文字をつなげると「おもてなし」となり、名称の由来ともなっています。英語での頭文字では“NUDGE”の構成に近い形にもなっており、行動変容を支援する政策設計の流れを示しています。
おもい(Need recognition)
- 社会や市民のニーズは何か
- その政策の目的と優先度は高いか
もんだい(Uncovering problem)
- 解決すべき社会課題は何か
- その課題における人々の行動の影響は
- 行動の原因や、改善すべき目標は何か
ていあん(Designing policies)
- 従来のアプローチとその限界は
- 他に検討すべき政策オプションは
- コストや効果の妥当性
- 実験設計や評価方法の整備
ナッジ(Generating results)
- 実施体制の整備
- 小規模な実践による検証
- 効果の定量・定性的評価
しこうさくご(Evaluation & evolution)
- 実施結果の検証
- 結果を踏まえたプロセスの見直し
- 中長期的な影響の把握と改善
この構成により、政策の企画から試行錯誤による改善まで、必要なチェックポイントを一貫して確認できる仕組みとなっています。
行動インサイト活用の実務支援に向けて
ナッジはあくまで政策ツールの一つであり、対象となる市民の視点に立った政策設計が重要です。そうした「相手の立場で考える」という姿勢も、「おもてなしフレームワーク」の名称に込められています。
ただし、現場では、こうした行動インサイトの視点を体系的に学ぶ機会が限られているのが現状です。特に新任の行政職員は、実務を通じてOJTで学ぶことが多いため、配属先によってはナッジ的な発想に触れることなく日々の業務に追われてしまうケースも少なくありません。
こうした課題を受け、日本版ナッジ・ユニット連絡会議では、実例を活用した研修機会の提供が提案されています。「おもてなしフレームワーク」を用いた体験型研修を通じて、実務者が行動インサイトの視点を身につけ、政策の実効性を高めていくことが、今後のEBPM(証拠に基づく政策立案)の実装にも大きく貢献すると期待されています。