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ナッジ活用における倫理的配慮とは

行動科学の知見を政策に応用する「ナッジ」は、近年その活用が広がる一方で、倫理的な観点からの懸念も耳にするようになってきました。たとえば、「ナッジで促された行動は本当に相手のためになっているのか?」「知らないうちに心理的負担や不快感を与えているのではないか?」といった疑問です。

ナッジは、他の政策手法と同様に、人々の生活に介入し、行動に影響を与える力を持っています。そのため、ナッジの設計・実施に携わる人には、法令を遵守するだけでなく、より高い倫理的意識が求められます。

こうした考えを背景に、日本版ナッジ・ユニット(BEST)では、2019年12月に「ナッジ倫理委員会」を設置。ナッジの実践にあたって必要な倫理的配慮について検討する体制を整備しました。

ナッジ倫理委員会ではまず、ナッジの有効性を調査・研究する際に参考となる27項目からなる「倫理チェックリスト」を作成し、2020年3月に公表しています(日本版ナッジ・ユニット、2020)。

このチェックリストは、すべての項目を満たせば倫理的に完全であるという意味ではなく、また、大学などの研究機関が行う正式な倫理審査の代替にはなりません。むしろ、ナッジを実施する側が自らの活動を振り返り、「各項目にきちんと対応できているか?」「未対応の場合、どのような対策を取るか?」を自己点検するための補助的なツールとして位置付けられています。

何よりも大切なのは、ナッジによって行動変容を促される人の立場に立って考えることです。もし自分がそのナッジの対象になったら、どのように感じるか。納得感を持てるか。不快に思わないか。こうした想像力を持つことが、ナッジを社会に受け入れられる形で実装していくために不可欠なのです。