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ナレッジマネージメントの次なるステージへ

グラスルーツからグローバル連携へ

これまでご紹介してきたように、日本国内でもナレッジマネージメント(KM)に関する取り組みは徐々に広がりを見せています。特に地方自治体の現場では、草の根レベルでの情報共有や実践知の蓄積といった、小さな挑戦が静かに、しかし着実に進んでいます。

こうした動きの背景には、「自治体ナッジシェア」などの仕組みや、海外機関の知見を翻訳・紹介する取り組みの存在があります。行政の最前線に立つ職員たちが、実践的なナレッジを共有することで、地域社会に適した政策やサービスの改善を目指しているのです。

しかし、私たちは今、大きなパラダイムシフトの真っただ中にいます。グリーン経済、シェア経済、そして脱炭素社会へと向かう中で、エネルギーや交通、食料といった戦略分野では、行動科学の知見(ナッジ)を活用した政策設計が求められています。これは、従来の枠組みを超えた「高度なナレッジマネージメント体制」の構築が不可欠であることを意味しています。

たとえば、米国や英国、オーストラリアといった国々では、政府の強いコミットメントや予算、人的資源の確保、そして民間・行政・学術の垣根を越えた人材交流によって、高度なKMシステムが確立されています。これにより、政策立案や評価における情報の効率的な共有が可能となり、より科学的かつ効果的な政策運営が実現しています。

一方で、日本では縦割り行政や年功序列といった組織文化が、新しいアイデアの導入や外部知見との連携を妨げている現実があります。さらに、SNSの普及により国民の情報への感度が高まるなか、情報公開とガバナンスのバランスも重要なテーマとなっています。

そんな中、注目したいのが京都市の「KYOTO CITY OPEN LABO」です。これは、行政と民間企業の知見を結びつけ、新しいサービスの社会実装を目指すプラットフォームです。「テーマ型」と「フリー型」の提案募集により、柔軟なアイデアを受け入れ、市民サービス向上を目指す実践の場となっています。このようなオープンイノベーションは、他の地域にとっても大いに参考になるでしょう。

今後、こうした取り組みを全国に広げていくためには、持続可能な資金モデルの構築が鍵となります。PPP(官民連携)やクラウドファンディングといった新たな手法の活用により、草の根のKM活動にリソースを集める仕組みが必要です。

さらに、近年のIT技術の進化、特に生成AIの発展は、KMに関わるコストを劇的に下げる可能性を秘めています。例えば、AIによる要約や翻訳を駆使することで、国内外の知見を多言語で共有する低コストな仕組みも構築可能です。日本の先進的な実証事例を海外に発信する動きも加速しつつあり、アジア開発銀行(ADB)など国際機関との連携も視野に入ってきています。

未来のナレッジマネージメントは、単なる情報の集積や共有ではなく、社会を動かすための「知のエコシステム」へと進化していくでしょう。そのために必要なのは、一部の専門家や行政機関だけでなく、民間企業、地域住民、そして私たち一人ひとりが主体的に関わることです。

「知」は、共有されてこそ力を持ちます。次のステージに向けて、ナレッジマネージメントを「一部の人のもの」から「みんなで育てる資産」へ。日本全体が一丸となって、その可能性を育んでいく時が来ています。