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ナッジ実装における組織と人の力をどう育てるか?

ナッジの効果的な活用には、政策担当者の知識やスキルだけでなく、それを支える組織全体の姿勢や構造も重要です。近年では、特に地方自治体において、ナッジの専門家を招いた研修や学びの場が各地で開かれ、組織的なナッジ活用の土壌が育ち始めています。

しかし、その一方で、ナッジの普及・定着を阻むいくつかの組織的な壁も浮かび上がってきています。

ナッジ普及を阻む、組織の壁とは?

地方自治体では、中央集権的な構造のもと、全国一律の行政サービス提供を使命とする体制が続いてきました。そのため、地域独自のアイデアを企画・実行に移すための柔軟な動きが取りづらく、ナッジのように「試してみる→学びを得る→改善する」といった柔軟なサイクルを育むことが難しい場面が多くあります。

また、「減点主義」「横並び意識」「前例踏襲主義」といった官僚的な傾向も根強く、たとえ職員がナッジに関心を持っていても、行動につながらないケースが少なくありません。専門家による研修を受けた後のステップ——つまり、実践と定着への橋渡しが、なかなか進まないのです。

実践を止める見えないブレーキ

他にも、以下のような要因が、ナッジの「芽」が育つのを妨げています。

ローテーション人事:3〜5年ごとに担当者が入れ替わることで、せっかくのナレッジや経験が積み上がらず、組織としてのノウハウが蓄積されにくい。

小規模自治体のリソース不足:予算的にも人的にも限られた中で、ナッジのような新しいアプローチに踏み出すのが難しい。

自主活動の制限:職員が個人的な関心から学びを深めたり、ナッジを試したりすることが、制度的・文化的に推奨されていない。

定量的評価の未整備:ナッジ施策がどれだけ行われ、どういった成果があったのかを「見える化」する仕組みがないため、好事例の共有や発展につながりづらい。

「挑戦を恐れない人」をどう支えるか?

こうした状況下でも、ナッジを積極的に取り入れている“チャンピオン人材”や組織は各地に存在します。ただし、現状ではそうした先進事例が孤立しがちで、他の自治体との横のつながりや、組織的なサポートの道筋が十分には描かれていません。

継続する仕組みがあってこそ、本物になる

ナッジの成果が小さくても見えたとき、それを継続的な施策へと昇華させるには、「実証」から「定着」へと移行するための制度設計が欠かせません。評価の枠組みが整っていなければ、成功例が「やりっぱなし」で終わってしまう可能性もあります。

そのためには、ナッジ施策に対する評価能力の強化や、倫理面での確認(ナッジ倫理チェックリストの活用など)を通じた説明責任の明確化が不可欠です。これにより、関係者の信頼や納得を得ながら、ナッジを持続可能な政策手法として定着させていく道が開けます。

これから求められるのは、「共に育つ」仕組み

ナッジの実践者は、今や一部の特別な人だけではありません。だからこそ、挑戦する人が孤立せず、横の連携やピアレビューを通じて共に育ち合える「学び合いのコミュニティ」が鍵となります。

小さな成功が確かな波となり、やがて多くの自治体が自分たちらしいナッジを生み出していく——そんな未来に向けて、今こそ、ナッジを育てる“土壌づくり”を地域全体で考えていくタイミングに来ているのではないでしょうか。