脱炭素やサステナビリティの取り組みを進めるうえで、「アカウンタビリティ(説明責任)」の確保は極めて重要です。しかし、単に情報を公開するだけでは、関係者に信頼されるガバナンスとは言えません。
アジア開発銀行(ADB)が公表している「アカウンタビリティとコミュニケーションに関する戦略(ACCOUNTABILITY MECHANISM COMMUNICATION STRATEGY)」は、以下の3つの基本原則を掲げています。
① 明確さ ― 誰にでも理解できる伝え方を
アカウンタビリティを担保する情報発信の第一歩は、「わかりやすさ」です。専門家だけでなく、一般の市民にも届く表現であることが求められます。
✅ 実践のポイント:
・専門用語の使用を控える/丁寧に説明する
例:英語の資料では、わかりやすい表現を心がけ、必要に応じて現地語に翻訳する。
・心理的な障壁を生まない言葉選び
例:「監査員」「調査員」など威圧感のある肩書きを避ける。
・伝え方を工夫する
例:動画・イラスト・ストーリー・インフォグラフィックなど、視覚的で親しみやすい表現を用いる。
・一貫したメッセージ発信
スポークスパーソンが、あらかじめ設計されたメッセージやディスカッションガイドに沿って発信することで、誤解や混乱を防ぎます。
② 説得力 ― 信頼と納得感を生む発信を
ただ「伝える」だけでは足りません。「納得してもらう」「信頼してもらう」ための仕掛けが必要です。
✅ 実践のポイント:
・相手視点の設計
「この情報は私にとってどんな意味があるのか?」という問いに答える内容であること。
・ターゲットごとのカスタマイズ
市民、行政職員、企業など、対象ごとにニーズや関心に応じた表現や資料を使い分ける。
・正確で信頼できる情報を提供する
出典やデータの裏付けがあり、最新の情報であること。
・パートナーと連携して発信する
例:共同でイベントを開催したり、共通のブランドで資料を出すことで、信頼性と巻き込み力が高まる。
・発信自体が信頼構築につながるようにする
情報提供が単なる「報告」ではなく、信頼できる関係構築のための行為として捉えられるように。
③ 一貫性 ― 継続的で計画的な情報発信を
発信は「一度やって終わり」ではなく、継続的かつ計画的に行うことが、信頼を積み重ねる鍵です。
✅ 実践のポイント:
・コンテンツカレンダーの作成
いつ・どの媒体で・どんな情報を出すかを計画。
・決まった頻度での発信
例:月1回のニュースレター、週2回のSNS更新など。
・複数チャネルの活用
ソーシャルメディア、メール、LINE、アプリなど、複数の手段でターゲットに合わせたリーチを目指す。
・ビジュアルスタイルの統一
色やフォント、ロゴの使い方を揃えることで、発信内容の「想起性(覚えられやすさ)」が高まる。
ナッジの導入やサステナブルな政策の実行において、「アカウンタビリティの確保」は単なる透明性の問題ではありません。信頼を築き、継続的な協働を可能にする「戦略的なコミュニケーション」がその本質です。
明確さ・説得力・一貫性。この3つの視点から、自分たちの情報発信を見直してみることは、ナッジに限らずあらゆる公的活動において、有効なガバナンスの第一歩になるはずです。