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市民とつくる脱炭素――マルシェで生まれた「脱炭素コマ」の話

市民とつくる脱炭素――マルシェで生まれた「脱炭素コマ」の話

ナッジとは何か――行動をそっと後押しする仕組み

ナッジとは、人に強制するのではなく、「ついそうしたくなる」仕組みで行動を後押しする考え方です。例えば、健康的な食品を目立つ場所に置くと自然と選ばれやすくなる、といった工夫がそれにあたります。環境分野でもこの考え方は広がっており、日々の暮らしの中で無理なく脱炭素行動を選べるようにする取り組みが進んでいます。環境省でも、市民の行動変容を促すために、地域や企業と連携しながらさまざまな実証が行われています。「気づいたら環境にやさしい選択をしていた」状態をどうつくるかが重要なテーマになっています。

マルシェでの小さな実験

今回ご紹介するのは、長野県塩尻市で行った取り組みです。舞台は市内で開催されたマルシェ。地域の方々が集まり、地元の食べ物や雑貨を楽しむ、あたたかい雰囲気の場です。

私たちはこの場に出店し、「脱炭素」というテーマをどうやって市民の皆さんに届けられるかを考えました。ただ説明するだけではなかなか伝わりません。そこで、「商品を通じて体験してもらう」という形で実験を行いました。

脱炭素コマというアイデア

そこで生まれたのが「脱炭素コマ」です。

このコマは、ペットボトルのキャップを再利用してつくられたもので、横浜の障害者施設で制作されたアップサイクル商品です。もともと環境にやさしい商品ですが、そこにさらに「環境価値」を付けました。

具体的には、商品を購入する際にCO2排出を相殺する仕組みを組み合わせることで、「実質的に脱炭素な商品」として販売しました。

少し難しく聞こえるかもしれませんが、やっていることはシンプルです。「この商品を買うことで、環境にちょっと良いことができる」そんな選択肢を用意したということです。

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実際に売ってみるとどうなるか

結果として、このコマは実際に売れました。

特に印象的だったのは、子どもたちの反応です。コマという遊び道具そのものの魅力もあり、手に取って遊びながら興味を持ってくれました。また、「前に買ったことがある」という方もいて、少しずつ認知が広がっていることも感じられました。

一方で、大人の方との会話の中では、「これはどういう仕組みなのか」といった質問も多くありました。その場で丁寧に説明すると、「それならやってみようかな」と納得して購入していただけるケースもありました。

商品だけではなく、会話そのものが重要だったというのが大きな発見でした。

見えてきた大事なポイント

今回の実証から見えてきたのは、脱炭素は「押しつけ」ではうまくいかないということです。ただ環境に良いからといって勧めても、人は簡単には動きません。

しかし、「楽しい」「かわいい」「ちょっといいことをしている気がする」といった要素が組み合わさると、自然と行動につながります。今回のコマは、その入り口として機能しました。

また、わかりやすさも重要です。環境価値やオフセットという考え方は、まだ一般的ではありません。説明がなければ伝わらない一方で、丁寧に説明すれば理解してもらえる。その手応えもありました。

地域と一緒にやる意味

今回の取り組みは、自治体と連携して行いました。

マルシェという場自体が地域の信頼関係の上に成り立っています。その中で実施することで、「よく分からない新しい取り組み」ではなく、「地域の中で行われているもの」として受け止めてもらいやすくなります。

実際に関係者との対話の中でも、こうした取り組みを地域の中で広げていく可能性について前向きな議論ができました。脱炭素というテーマを、地域の日常の中に落とし込んでいくことの重要性を感じました。

これからに向けて

今回の「脱炭素コマ」は、小さな取り組みです。

しかし、市民の方々と直接コミュニケーションを取りながら、「自分ごと」として脱炭素を考えてもらうきっかけをつくることができました。これはとても大きな意味を持つものだと思います。

今後は、こうした仕組みをマルシェだけでなく、ECや日常の買い物の中にも広げていくことを考えています。

「気づいたら、環境にいい選択をしていた」そんな社会を、少しずつ実現していきたいと思います。